Last Year's Tree
Japanese title:
去年の木《きょねんのき》
Author:
Niimi Nankichi
新美南吉《にいみなんきち》
Translation and notes:
Dan Bornstein
去年の木《きょねんのき》
Author:
Niimi Nankichi
新美南吉《にいみなんきち》
Translation and notes:
Dan Bornstein
> Bilingual text
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いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。
いっぽんの木《き》と、いちわの小鳥《ことり》とはたいへんなかよしでした。
A certain tree and a certain little bird were very good friends.
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小鳥はいちんちその木の枝で歌をうたい、木はいちんちじゅう小鳥の歌をきいていました。
小鳥《ことり》はいちんちその木《き》の枝《えだ》で歌《うた》をうたい、木《き》はいちんちじゅう小鳥《ことり》の歌《うた》をきいていました。
The little bird would stand on the tree's branches and sing songs all day, and the tree would listen all day long to the little bird's songs.
▼
けれど寒い冬がちかづいてきたので、小鳥は木からわかれてゆかねばなりませんでした。
けれど寒《さむ》い冬《ふゆ》がちかづいてきたので、小鳥《ことり》は木《き》からわかれてゆかねばなりませんでした。
But at some point the cold winter was approaching, so the little bird had to say goodbye and leave the tree.
▼
「さよなら。また来年きて、歌をきかせてください。」と木はいいました。
「さよなら。また来年《らいねん》きて、歌《うた》をきかせてください。」と木《き》はいいました。
"So long. Please come back next year and let me hear you sing again," the tree said.
▼
「え。それまで待っててね。」
「え。それまで待《ま》っててね。」
"Yeah. Please wait for me till then."
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と、小鳥はいって、南の方へとんでゆきました。
と、小鳥《ことり》はいって、南《みなみ》の方《ほう》へとんでゆきました。
The little bird said this and flew away toward the south.
▼
春がめぐってきました。野や森から、雪がきえていきました。
春《はる》がめぐってきました。野《の》や森《もり》から、雪《ゆき》がきえていきました。
Spring came around again. The snow was gradually disappearing from the fields and the forests.
▼
小鳥は、なかよしの去年の木のところへまたかえっていきました。
小鳥《ことり》は、なかよしの去年《きょねん》の木《き》のところへまたかえっていきました。
The little bird went back to where its good friend, the tree from last year, had stood.
▼
ところが、これはどうしたことでしょう。木はそこにありませんでした。根っこだけがのこっていました。
ところが、これはどうしたことでしょう。木《き》はそこにありませんでした。根《ね》っこだけがのこっていました。
But then—what was the meaning of this? The tree was not there. Only a stump remained.
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「ここに立ってた木は、どこへいったの。」と小鳥は根っこにききました。
「ここに立《た》ってた木《き》は、どこへいったの。」と小鳥《ことり》は根《ね》っこにききました。
"The tree that stood here—where did it go?" The little bird asked the stump.
▼
根っこは、「きこりが斧でうちたおして、谷のほうへもっていっちゃったよ。」といいました。
根《ね》っこは、「きこりが斧《おの》でうちたおして、谷《たに》のほうへもっていっちゃったよ。」といいました。
The stump said: "A lumberjack cut it down with an axe and took it away to the valley."
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小鳥は谷のほうへとんでいきました。
小鳥《ことり》は谷《たに》のほうへとんでいきました。
The little bird flew over to the valley.
▼
谷の底には大きな工場があって、木をきる音が、びィんびィん、としていました。
谷《たに》の底《そこ》には大《おお》きな工場《こうじょう》があって、木《き》をきる音《おと》が、びィんびィん、としていました。
At the bottom of the valley there was a big factory, and the high-pitched buzzing noise of wood being sawed was coming from there.
▼
小鳥は工場の門の上にとまって、「門さん、わたしのなかよしの木は、どうなったか知りませんか。」とききました。
小鳥《ことり》は工場《こうじょう》の門《もん》の上《うえ》にとまって、「門《もん》さん、わたしのなかよしの木《き》は、どうなったか知《し》りませんか。」とききました。
The little bird sat on top of the factory gate, and asked: "Mr. Gate, do you know by any chance what happened to my good friend, the tree?"
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門は、「木なら、工場の中でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村へ売られていったよ。」といいました。
門《もん》は、「木《き》なら、工場《こうじょう》の中《なか》でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村《むら》へ売《う》られていったよ。」といいました。
The gate said: "Tree, you say? In that case it was chopped into small pieces in the factory, and then it turned into matches and was sold to people in that village over there."
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小鳥は村のほうへとんでいきました。
小鳥《ことり》は村《むら》のほうへとんでいきました。
The little bird flew over to the village.
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ランプのそばに女の子がいました。
ランプのそばに女《おんな》の子《こ》がいました。
A girl was sitting there beside a lamp.
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そこで小鳥は、「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」とききました。
そこで小鳥《ことり》は、「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」とききました。
So the little bird asked: "Excuse me, do you happen to know where I can find the match that lit this lamp?"
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すると女の子は、「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火が、まだこのランプにともっています。」といいました。
すると女《おんな》の子《こ》は、「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火《ひ》が、まだこのランプにともっています。」といいました。
The girl said: "The match has burned out already. But the fire that the match lit is still burning inside this lamp."
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小鳥は、ランプの火をじっとみつめておりました。
小鳥《ことり》は、ランプの火《ひ》をじっとみつめておりました。
The little bird stared fixedly at the fire inside the lamp.
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それから、去年の歌をうたって火にきかせてやりました。
それから、去年《きょねん》の歌《うた》をうたって火《き》にきかせてやりました。
Then the bird sang last year's songs to the fire.
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火はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
火《ひ》はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
The fire trembled and flickered, and appeared to be delighted from the bottom of its heart.
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歌をうたってしまうと、小鳥はまたじっとランプの火をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。
歌《うた》をうたってしまうと、小鳥《ことり》はまたじっとランプの火《ひ》をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。
When the little bird had finished singing the songs, it once again looked fixedly at the fire inside the lamp. Then it flew off to some unknown destination.
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いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。
いっぽんの木《き》と、いちわの小鳥《ことり》とはたいへんなかよしでした。
A certain tree and a certain little bird were very good friends.
- いっぽん: One tree. ぽん is 本 (originally read ほん), the counter word for trees.
- いちわ: One bird. わ is 羽, the counter word for birds.
- なかよし = 仲良し. Good friends, close friendship.
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小鳥はいちんちその木の枝で歌をうたい、木はいちんちじゅう小鳥の歌をきいていました。
小鳥《ことり》はいちんちその木《き》の枝《えだ》で歌《うた》をうたい、木《き》はいちんちじゅう小鳥《ことり》の歌《うた》をきいていました。
The little bird would stand on the tree's branches and sing songs all day, and the tree would listen all day long to the little bird's songs.
- いちんち: A fast-speech way of saying いちにち (一日). Likewise, いちんちじゅう is いちにちじゅう (一日中).
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けれど寒い冬がちかづいてきたので、小鳥は木からわかれてゆかねばなりませんでした。
けれど寒《さむ》い冬《ふゆ》がちかづいてきたので、小鳥《ことり》は木《き》からわかれてゆかねばなりませんでした。
But at some point the cold winter was approaching, so the little bird had to say goodbye and leave the tree.
- ゆかねばなりません = いかなければなりません. The verb ゆく is a written/literary equivalent of いく (行く), and the construction [negative + ねば] is a written/literary equivalent of [negative + なければ].
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「さよなら。また来年きて、歌をきかせてください。」と木はいいました。
「さよなら。また来年《らいねん》きて、歌《うた》をきかせてください。」と木《き》はいいました。
"So long. Please come back next year and let me hear you sing again," the tree said.
▼
「え。それまで待っててね。」
「え。それまで待《ま》っててね。」
"Yeah. Please wait for me till then."
- 待ってて: A colloquial contracted form of 待っていて.
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と、小鳥はいって、南の方へとんでゆきました。
と、小鳥《ことり》はいって、南《みなみ》の方《ほう》へとんでゆきました。
The little bird said this and flew away toward the south.
- いって = 言って.
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春がめぐってきました。野や森から、雪がきえていきました。
春《はる》がめぐってきました。野《の》や森《もり》から、雪《ゆき》がきえていきました。
Spring came around again. The snow was gradually disappearing from the fields and the forests.
- めぐって: The verb めぐる, lit. "to turn, to rotate", also means to come around (said of cyclical, regular phenomenons such as seasons).
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小鳥は、なかよしの去年の木のところへまたかえっていきました。
小鳥《ことり》は、なかよしの去年《きょねん》の木《き》のところへまたかえっていきました。
The little bird went back to where its good friend, the tree from last year, had stood.
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ところが、これはどうしたことでしょう。木はそこにありませんでした。根っこだけがのこっていました。
ところが、これはどうしたことでしょう。木《き》はそこにありませんでした。根《ね》っこだけがのこっていました。
But then—what was the meaning of this? The tree was not there. Only a stump remained.
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「ここに立ってた木は、どこへいったの。」と小鳥は根っこにききました。
「ここに立《た》ってた木《き》は、どこへいったの。」と小鳥《ことり》は根《ね》っこにききました。
"The tree that stood here—where did it go?" The little bird asked the stump.
- 立ってた: A colloquial contraction of 立っていた.
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根っこは、「きこりが斧でうちたおして、谷のほうへもっていっちゃったよ。」といいました。
根《ね》っこは、「きこりが斧《おの》でうちたおして、谷《たに》のほうへもっていっちゃったよ。」といいました。
The stump said: "A lumberjack cut it down with an axe and took it away to the valley."
- うちたおして = 打ち倒して.
- もっていっちゃった: A colloquial contraction of 持っていってしまった.
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小鳥は谷のほうへとんでいきました。
小鳥《ことり》は谷《たに》のほうへとんでいきました。
The little bird flew over to the valley.
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谷の底には大きな工場があって、木をきる音が、びィんびィん、としていました。
谷《たに》の底《そこ》には大《おお》きな工場《こうじょう》があって、木《き》をきる音《おと》が、びィんびィん、としていました。
At the bottom of the valley there was a big factory, and the high-pitched buzzing noise of wood being sawed was coming from there.
- 音が、びィんびィん、としていました: The と marks the onomatopoeia びィんびィん as a description (adverb) of the following verb, する. The expression 音がする means "[a certain] sound can be heard". This basic expression was expanded here to describe what kind of sound it is.
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小鳥は工場の門の上にとまって、「門さん、わたしのなかよしの木は、どうなったか知りませんか。」とききました。
小鳥《ことり》は工場《こうじょう》の門《もん》の上《うえ》にとまって、「門《もん》さん、わたしのなかよしの木《き》は、どうなったか知《し》りませんか。」とききました。
The little bird sat on top of the factory gate, and asked: "Mr. Gate, do you know by any chance what happened to my good friend, the tree?"
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門は、「木なら、工場の中でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村へ売られていったよ。」といいました。
門《もん》は、「木《き》なら、工場《こうじょう》の中《なか》でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村《むら》へ売《う》られていったよ。」といいました。
The gate said: "Tree, you say? In that case it was chopped into small pieces in the factory, and then it turned into matches and was sold to people in that village over there."
- きりきざまれて = 切り刻まれて. Be cut finely, into small pieces.
- 売られていった: Lit. "was sold away", i.e., sold and taken away from here to there.
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小鳥は村のほうへとんでいきました。
小鳥《ことり》は村《むら》のほうへとんでいきました。
The little bird flew over to the village.
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ランプのそばに女の子がいました。
ランプのそばに女《おんな》の子《こ》がいました。
A girl was sitting there beside a lamp.
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そこで小鳥は、「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」とききました。
そこで小鳥《ことり》は、「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」とききました。
So the little bird asked: "Excuse me, do you happen to know where I can find the match that lit this lamp?"
- もしもし: Besides being the equivalent of "hello" in phone calls, this expression is also used to catch people's attention when seeing them in person.
- ごぞんじありませんか: Lit. "don't you know [anything about ~]?" A polite formula to ask a person if they are familiar with a specific thing. Here, the bird is asking about the particular match that was used to light the lamp, not about matches in general. This is not stated explicitly since it is understood from the context, i.e., the fact that the girl is sitting next to a lamp.
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すると女の子は、「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火が、まだこのランプにともっています。」といいました。
すると女《おんな》の子《こ》は、「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火《ひ》が、まだこのランプにともっています。」といいました。
The girl said: "The match has burned out already. But the fire that the match lit is still burning inside this lamp."
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小鳥は、ランプの火をじっとみつめておりました。
小鳥《ことり》は、ランプの火《ひ》をじっとみつめておりました。
The little bird stared fixedly at the fire inside the lamp.
▼
それから、去年の歌をうたって火にきかせてやりました。
それから、去年《きょねん》の歌《うた》をうたって火《き》にきかせてやりました。
Then the bird sang last year's songs to the fire.
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火はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
火《ひ》はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
The fire trembled and flickered, and appeared to be delighted from the bottom of its heart.
- ゆらゆらと: In a flickering manner. The flame is swaying, changing its shape, etc.
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歌をうたってしまうと、小鳥はまたじっとランプの火をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。
歌《うた》をうたってしまうと、小鳥《ことり》はまたじっとランプの火《ひ》をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。
When the little bird had finished singing the songs, it once again looked fixedly at the fire inside the lamp. Then it flew off to some unknown destination.
> Original non-annotated text
去年の木
新美南吉
いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。小鳥はいちんちその木の枝《えだ》で歌をうたい、木はいちんちじゅう小鳥の歌をきいていました。
けれど寒い冬がちかづいてきたので、小鳥は木からわかれてゆかねばなりませんでした。
「さよなら。また来年きて、歌をきかせてください。」
と木はいいました。
「え。それまで待っててね。」
と、小鳥はいって、南の方へとんでゆきました。
春がめぐってきました。野や森から、雪がきえていきました。
小鳥は、なかよしの去年《きょねん》の木のところへまたかえっていきました。
ところが、これはどうしたことでしょう。木はそこにありませんでした。根っこだけがのこっていました。
「ここに立ってた木は、どこへいったの。」
と小鳥は根っこにききました。
根っこは、
「きこりが斧《おの》でうちたおして、谷のほうへもっていっちゃったよ。」
といいました。
小鳥は谷のほうへとんでいきました。
谷の底《そこ》には大きな工場があって、木をきる音が、びィんびィん、としていました。
小鳥は工場の門の上にとまって、
「門さん、わたしのなかよしの木は、どうなったか知りませんか。」
とききました。
門は、
「木なら、工場の中でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村へ売られていったよ。」
といいました。
小鳥は村のほうへとんでいきました。
ランプのそばに女の子がいました。
そこで小鳥は、
「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」
とききました。
すると女の子は、
「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火が、まだこのランプにともっています。」
といいました。
小鳥は、ランプの火をじっとみつめておりました。
それから、去年《きょねん》の歌をうたって火にきかせてやりました。火はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
歌をうたってしまうと、小鳥はまたじっとランプの火をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。
去年の木
新美南吉
いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。小鳥はいちんちその木の枝《えだ》で歌をうたい、木はいちんちじゅう小鳥の歌をきいていました。
けれど寒い冬がちかづいてきたので、小鳥は木からわかれてゆかねばなりませんでした。
「さよなら。また来年きて、歌をきかせてください。」
と木はいいました。
「え。それまで待っててね。」
と、小鳥はいって、南の方へとんでゆきました。
春がめぐってきました。野や森から、雪がきえていきました。
小鳥は、なかよしの去年《きょねん》の木のところへまたかえっていきました。
ところが、これはどうしたことでしょう。木はそこにありませんでした。根っこだけがのこっていました。
「ここに立ってた木は、どこへいったの。」
と小鳥は根っこにききました。
根っこは、
「きこりが斧《おの》でうちたおして、谷のほうへもっていっちゃったよ。」
といいました。
小鳥は谷のほうへとんでいきました。
谷の底《そこ》には大きな工場があって、木をきる音が、びィんびィん、としていました。
小鳥は工場の門の上にとまって、
「門さん、わたしのなかよしの木は、どうなったか知りませんか。」
とききました。
門は、
「木なら、工場の中でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村へ売られていったよ。」
といいました。
小鳥は村のほうへとんでいきました。
ランプのそばに女の子がいました。
そこで小鳥は、
「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」
とききました。
すると女の子は、
「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火が、まだこのランプにともっています。」
といいました。
小鳥は、ランプの火をじっとみつめておりました。
それから、去年《きょねん》の歌をうたって火にきかせてやりました。火はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。
歌をうたってしまうと、小鳥はまたじっとランプの火をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。